溶けた金属を型に流し込んで複雑な形状の金属製品が生まれるのが「鋳造」です。
鋳造を製作するうえで最初に知っておきたいのが「鋳造方案」となります。
鋳造方案とは、溶けた金属をどのように型に流し込んで、理想的な製品に仕上げるかを考える設計図です。
この記事では、鋳造をこれから学ぶ方にも分かりやすく、鋳造方案の基本と重要なポイントをご紹介します。
鋳造方案とは?
私たちの身の回りには、自動車部品や鉄道部品など、さまざまな金属製品があります。
これらの多くは金属を溶かして型に流し込み、冷やして固める「鋳造」という方法で作られています。
この「どうやって金属を型に流し込むか」を考える設計図のようなものが「鋳造方案」です。
鋳造方案の主な3つの部位

鋳造方案を構成しているのは、主に以下の3つです。
- 湯口(ゆぐち)系
- 押湯(おしゆ)
- 冷し金(ひやしがね)
どれも、良い製品を作るには欠かせない部位です。
以下でこれらを解説します。
湯口(ゆぐち)系:溶けた金属を流す入口
鋳造方案で最初に考えるのは「湯口(ゆぐち)系」です。「湯(ゆ)」とは溶けた金属のことで、その流れる道を設計します。主に3つの部分からなります。
部位の名称 | 解説 |
---|---|
湯口(ゆぐち) | 溶けた金属をそそぎ込む入口。 |
湯道(ゆみち) | 溶けた金属が流れる主要な道。 |
堰(せき) | 製品部分へ金属を導く細い通路。 |
湯口系の設計がうまくいかないと、金属が型の中で上手く流れず、製品に穴があいたり、不純物が混ざったりします。
湯口系の設計が製品の品質にダイレクトに影響するので、設計の際はとても重要な部位です。
押湯(おしゆ):金属の収縮を防ぐ

金属は冷えて固まるとき少し縮むので、この収縮を補うために重要なのが「押湯(おしゆ)」の設計です。
押湯の位置や大きさを適切に設計しないと溶けた金属が固まった後に、収縮して引けてしまったり、製品の中に「引け巣(ひけす)」という穴ができます。
押湯の設計次第で、設計図の寸法が出なかったり製品の強度を下げたりと不良の原因となるので注意が必要です。
冷し金(ひやしがね):溶けた金属の冷える速さを調整
製品の形によっては、厚い部分と薄い部分があります。このまま放っておくと、薄い部分は早く冷えて固まり、厚い部分はゆっくり冷えます。
溶けた金属の冷えるスピードを調整するために使うのが「冷し金」です。厚い部分の近くに金属片を置いて、その部分の冷却を早めるのです。
冷し金を適切に配置することで、引け巣などの欠陥を防ぎます。
良い鋳造方案の4つの条件
良い鋳造方案には以下の4つの条件があります。
- スムーズな流れで湯が流れる
- 厚いところから固まる
- 材料と手間を少なくする
- 安定した品質を保つ
これらの条件を満たすように方案設計しましょう。以下で詳しく解説します。
スムーズな流れで湯が流れる
溶けた金属が型の中をスムーズに流れることが大切です。
なぜなら、流れが速すぎると空気を巻き込んで気泡ができ、遅すぎると途中で固まってしまうからです。
製品に巣や穴が空いてしまう原因になるので、適切なスピードで湯を流すには方案設計が重要となります。
厚いところから固まる
理想的な湯の固まり方は、製品の外側から内側へ、薄い部分から厚い部分へと進んでいきます。
なぜなら、外側や薄いところから固まると内側や厚いところにしっかりと湯が流れるからです。
鋳造では、内部から先に固まると収縮によって穴ができたり引けがてきて、不良の原因になります。
材料と手間を少なくする
必要最小限の湯口系や押湯で良い製品ができれば、材料の無駄も少なく、あとの仕上げもしやすくなります。
良い方案設計が出来れば、時間、コストの削減につながるでしょう。
安定した品質を保つ
同じ製品を何度も作るとき、いつも同じ品質のものができることも重要です。
鋳造では、良い品質の製品を大量生産します。
そのためには、誰が作っても同じようにできる、わかりやすい方案設計が必要です。
現代の鋳造方案:コンピューターの力を借りる
昔は熟練の職人の経験と勘に頼っていた鋳造方案設計ですが、現代ではコンピューターシミュレーションが大活躍しています。
流動解析と呼ばれる技術で、溶けた金属がどのように流れるかをコンピューター上で確認できます。
また、凝固解析では、どのように固まっていくかのシミュレーションも可能です。
これにより、実際に鋳造する前に問題点を見つけて改善できるので、効率の良い方案設計ができるようになります。
鋳造方案設計の4つのポイント
鋳造方案を設計するうえで大切な4つのポイントを解説します。
内容 | 製品に合わせた湯口系 | 製品に合った押湯 | 冷却速度の調整 | 鋳型との相性 |
---|---|---|---|---|
ポイント | 複雑な形状なら複数の入口を設けるなど、製品に合わせた設計する。 | 大きすぎると無駄になり小さすぎると効果がない。 製品の大きさや材質に合わせて計算する。 | 均一に冷えるように場所によって冷し金で冷却速度を調整。 | 砂型・金型など使う型の特性に合わせた設計も必要。 |
鋳造方案が悪いと起きること
良い鋳造方案は良い製品を大量につくるうえでとても重要です。方案が悪いと、以下のような問題が起きます。
- 鋳巣(いす):製品内部に空洞ができる
- 湯境(ゆざかい):金属の流れが合流する部分での欠陥
- 湯回り不良:金属が型の隅々まで行き渡らない
- 変形:収縮による製品の歪み
これらは製品の品質を大きく下げ、不良の原因となります。
まとめ
鋳造方案は、普段は目に見えない「作り方の設計」ですが、製品の品質を左右する大切な要素です。
良い設計ができれば、キレイな製品が効率よく作れます。
製品も形状が複雑化しており、長年の経験と最新のコンピューター技術を組み合わせて、現在でもより良い鋳造方案が日々考えられています。
私たちの生活を支える金属製品の品質向上には、この方案設計の存在が欠かせないのです。
コメント